【シリーズ】構造物の維持管理に役立つ知識〈全8回〉
寄 稿: 松村 英樹(一般社団法人 日本構造物診断技術協会 代表理事/技術アドバイザー室長)
#07|構造物診断についての豆知識(その2)
今回は、道路橋の伸縮装置とその周辺の路面に発生している変状を取り上げ、その発生原因について解説する。
橋台の移動・傾斜に関係する変状について
伸縮装置は上部構造の端部に設置され、上部構造の温度伸縮量に対応して伸縮遊間が設けられている。伸縮装置上に輪荷重が繰り返し載荷されるため、衝撃や振動により変状が生じやすい。伸縮装置とその周辺の路面には以下のような変状が見られることがある1)2)。
- 鋼製フィンガージョイントのフェイスプレートの破断
- ゴム製ジョイントのゴムの破断
- 可動部で伸縮方向に閉じた状態または開いた状態の遊間異常【写真1】
- 鋼製フィンガージョイントの橋軸直角方向のずれ
- 伸縮装置の前後の橋面舗装のひび割れ【写真2】
- 鋼製フィンガージョイントのフェイスプレートの段差【写真3】
- 橋台パラペットや後打ちコンクリートと伸縮装置本体との段差【写真3】
- 後打ちコンクリートの橋面舗装との段差



これらの変状の発生原因には、伸縮装置本体に起因するものと、他の部材・部位に発生した変状によって伸縮装置に変状を誘発するものと、伸縮装置本体の変状が他の部材・部位に変状を発生させるものがある。以下にこれらについて解説する。
下部構造の変状との関連
橋台が移動、傾斜すると、上記a~hのような変状が発生する。この原因には、側方流動や洗掘、地すべり、地震等がある。
【図1】は橋台の側方流動のメカニズムを示したものである。軟弱地盤上に盛土を構築すると、軟弱地盤が塑性変形し、地盤の側方に流動する。これにより橋台が移動、傾斜すると、【写真4】のように桁端とパラペットに遊間が上下で異なる遊間異常が表れる。これにより上記のような変状が発生する。支承についても【写真4】のように移動機能が低下することがある。


この現象の抜本対策としては、背面盛土を軽量盛土材にするなどにより側方の流動を抑制する方法があるが、コスト面や長期間の交通止めなど課題が多く、現実的な抜本対策ではないものの、パラペットの打ち替えによる遊間確保や支承交換などが行われている。
また、最近頻発している集中豪雨により下部構造の基礎が洗掘され支持機能が低下し、下部構造が傾斜した場合にも上記のような変状が表れる。
点検時に上記のような変状が見つかった場合は、原因として下部構造の移動、傾斜の可能性があることを認識しておく必要がある。
支承の変状との関連
伸縮装置の遊間から浸入した雨水等が【写真5】のように橋座面にある支承や桁端部を腐食させると、支承機能の移動・回転機能が低下するとともに、支承が沈下する場合がある。これにより伸縮装置の移動機能の低下や段差が発生することがある。特に冬季に融雪剤を散布する地域では、塩化物イオンを含んだ水によりこの支承の変状の進行は顕著となり、伸縮装置の変状も急速に進行する。

また、支承付近の鋼桁が減肉し耐荷性能が低下する場合もあり、減肉により疲労亀裂が発生する場合もある。
遊間から浸入した雨水が橋座面に滞水するのを防ぐため、伸縮装置に樋などを設けているものが、経年劣化により破損し、十分に機能を果たしていない場合もある。適切な維持管理が必要である。
腐食した支承の移動・回転機能の回復に対して、補修で対応できる場合ものもあるが、支承交換が適切な対策となる場合もある。
伸縮装置に上記のような変状が認められた場合は、支承や桁端の変状状況を調査し、必要に応じて対策を講じる必要がある。
端部床版の変状との関連
伸縮装置が設置されている床版の端部は、輪荷重の繰り返しにより疲労耐久性は低下する可能性が高いため、床版端部から床版支間の1/2の間は必要鉄筋量の2倍を配置することや主桁ハンチ高だけ床版厚を確保するように現行の令和7年版道路橋示方書では規定されている。
しかしながら、伸縮装置を交換する時に、既設床版を一部撤去し、伸縮装置を撤去して新規の伸縮装置を設置する際、後打ちコンクリートの締め固め不足や、既設床版との付着不足があると、床版の疲労耐久性が低下しているため、大型車両通行時に床版が抜け落ちた事例もある。この工事は限られた規制時間内で工事を完了しなければならない場合が多く、適切な施工管理が必要である。
鋼製フィンガージョイントの内の土砂堆積との関連
上述したように支承の腐食や桁端の腐食など伸縮装置の遊間からの雨水の浸入を防止するために、様々な伸縮装置の非排水型の工夫がされているが、止水材により土砂詰りが進行することが懸念される。【写真6】は床版更新工事で既設床版を撤去時の鋼製フィンガージョイントの状況である。長年にわたり橋面から浸入した土砂が鋼製フィンガージョイントの止水樋に堆積し固結している。これにより、桁の移動機能が低下する可能性があり、維持工事の中で土砂の撤去をこまめにしておく必要がある。

このように、伸縮装置とその周辺に発生する上記のa~hのような変状には、対象部位以外に原因があることが多く、これを念頭に点検・診断と対策検討を進めるべきと考える。
また、伸縮装置やその付近で発生している変状は、落橋など深刻な事態に至ることは少ないが、通行車両や歩行者の安全が懸念される。そのため、定期点検時だけではなく日常の道路パトロールにおいても路面の変状を確認した場合には、その発生原因を調べ、対策の有無を判断し、通行車両の安全が脅かされる可能性がある場合は緊急に対策を講じる必要がある。
このうち、自由塩化物イオンは鉄筋の不動態被膜を破壊し鋼材の腐食に関与するが、フリーデル氏塩に固定された塩化物イオンは不働態被膜を破壊することはなく腐食には関与しない。しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリート中に進入しコンクリートの中性化が進行すると、二酸化炭素がフリーデル氏塩と反応し、炭酸カルシウム(CaCO3)と塩化カルシウム(CaCl2)を生成する。これによりフリーデル氏塩に固定されていた塩化物イオンは解離し自由塩化物イオンとなる。
この結果、中性化していない場合と比較すると、多くの自由塩化物イオンが拡散することとなり、鋼材の腐食進行はより加速される。
《次回は2026年8月にUP予定です》
【参考文献】
- 日本道路協会:道路橋点検必携(令和6年版), 2024.12
- 国土交通省国土技術政策総合研究所:道路構造物管理実務者研修(橋梁初級Ⅰ)道路橋の定期点検に関するテキスト(その2) 国総研資料第1232号, 2022.11

