【シリーズ】構造物の維持管理に役立つ知識〈全8回〉
寄 稿: 松村 英樹(一般社団法人 日本構造物診断技術協会 代表理事/技術アドバイザー室長)
#01|コンクリートの劣化機構についての豆知識(その1)
今回は、コンクリート構造物に発生している劣化のうち、中性化による劣化機構について学会や研究機関からの報告等を参考に最近の知見などを解説する。
コンクリートの中性化と鋼材腐食
一般的にセメントと水が反応して生成されるセメント水和物は、ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)が約60%強、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が25%程度、その他エトリンガイトやモノサルフェートなどが15%程度を占めている。これらが大気中の二酸化炭素(CO2)と反応すると、以下のように炭酸カルシウム(CaCO3)が生成される。これはコンクリートの炭酸化反応と呼ばれる現象であるが、これをコンクリート標準示方書では中性化としている。
■セメント水和物の炭酸化反応式
水酸化カルシウムと二酸化炭素の反応
Ca(OH)2 +CO2 → CaCO3+H2O
ケイ酸カルシウム水和物と二酸化炭素の反応
3CaO・SiO2・3H2O+3CO2 → 3CaCO3+2SiO2+3H2O
エトリンガイトと二酸化炭素の反応
3CaO・Al2O3・3CaSO4・32 H2O+3CO2 → 3CaCO3+2Al(OH)3+3CaSO4・H2O+29H2O
モノサルフェートと二酸化炭素の反応
3CaO・Al2O3・3CaSO4・12 H2O+3CO2 → 3CaCO3+2Al(OH)3+CaSO4・H2O+9H2O
コンクリートは通常、pH値12~13の高アルカリ性を示す。これは強アルカリ性の水酸化カルシウムの存在が大きい。水酸化カルシウムが二酸化炭素により炭酸化反応すると、水酸化カルシウムはpH値が9程度の炭酸カルシウムとなるため、コンクリートのpH値が低下する。pH値が11程度まで低下すると鉄筋の不動態被膜が破壊され、水分の浸透を伴うと鉄筋の腐食が始まる。以前は鉄筋付近まで中性化が進行すると鉄筋は腐食環境に置かれていると判断されていた。つまり、中性化している位置から鉄筋表面までの距離を中性化残りとして、通常これが10㎜になると鉄筋は腐食する環境となり、塩害環境下に置かれるとこれが25㎜になると判断された。
中性化による鉄筋腐食と水分の関係
その後の研究で中性化による鉄筋の腐食には水分の影響があることが明確になってきた。そのため、現行の土木学会の「コンクリート標準示方書」や日本建築学会の「建設工事標準仕様書・解説JASS5鉄筋コンクリート工事」では中性化がコンクリート内部に進行し、鉄筋の不働態被膜が破壊されたとしても水分が存在しないと鉄筋の腐食は進行が小さくなることが記載されている。中性化による鉄筋の腐食は水分の存在に影響されるとの考え方になってきている1)。
特に2022年に改定されたJASS5では「非腐食環境」という環境区分が設けられ、水分がない屋内空間にある部材などでは中性化による鉄筋腐食を検討する必要はないことが定められた。一方土木構造物の場合、ほとんどが屋外にあることから水分が供給される環境にあり、現行のコンクリート標準示方書設計編の耐久性に関する照査では「中性化と水分浸透に伴う鉄筋腐食に対する照査」として照査方法が記述され、水分の影響が鉄筋腐食に影響されることが示されている。
RC高架橋における中性化と水掛かりの影響
鉄道総研ではRC構造の高架橋に対して中性化に関する諸調査が行われている。結果で水掛かりのある部位では中性化残りが10㎜以下では、はく離・はく落の可能性が高く、水掛かりがない部位では低いことが報告されている。一方、水掛かりがない部位でも中性化残りが5㎜、3㎜では、はく離はく落が発生しているとされている2)。水分の有無に関係なくかぶりの確保は耐久性の維持の観点から極めて大事である。
写真は壁高欄と床版の水切り部で鉄筋露出状況である。いずれも水分が供給されやすい環境にあり、かぶりも不足しているため、中性化の進行により鉄筋が腐食しかぶりコンクリートがはく落し、鉄筋が露出したと推察される事例である。


中性化は内部鋼材を腐食させる現象とされてきたが、最近は環境配慮型コンクリート技術のひとつとしてCO2をコンクリート中のCa(OH)2 に吸収させCaCO3としコンクリート中に固定化し、CO2削減につなげようとする技術も開発されてきている。中性化はマイナス面からプラス面のイメージに変化してきている1)。
《次回は8月にUP予定です》
【参考文献】
- 石田哲也,野口貴文,坂田昇,大野元寛:コンクリートの炭酸化と中性化―そのプラスとマイナスの両側面―,コンクリート工学,Vol.61,No7,2023.7
- 轟俊太朗,石田哲也,田所敏弥,上田洋:コンクリート中の鉄筋腐食に与える水とコンクリートの中性化の影響,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.74,No4,226-238,2019