#04|コンクリートの劣化機構についての豆知識(その4)

コンクリートの劣化機構についての豆知識(その4) 技術コラム

【シリーズ】構造物の維持管理に役立つ知識〈全8回〉
寄 稿: 松村 英樹(一般社団法人 日本構造物診断技術協会 代表理事/技術アドバイザー室長)


#04|コンクリートの劣化機構についての豆知識(その4)

今回はコンクリート構造物の内部鉄筋の腐食膨張により引き起こされる、かぶりコンクリートのはく離・はく落現象について解説する。

鉄筋腐食が誘発するコンクリートのはく離・はく落リスク

RC部材やPC部材に塩化物イオンや二酸化炭素等の劣化因子が浸入すると、【写真1】のように内部鉄筋は腐食膨張し、かぶりコンクリートがはく離・はく落する。はく落した部位によっては耐荷性能の低下につながる場合もあるが、はく落したコンクリート片が深刻な第三者被害を引き起こすこともある。

写真1 RC床版と壁高欄のかぶりコンクリートはく落

そのため、コンクリート片のはく落は、第三者被害の可能性がある部位として、点検時にハンマーによるたたき検査や赤外線カメラを用いた非破壊検査【写真2】等により、かぶりコンクリートのはく離範囲を調査し、はく離が確認された箇所に対しては、はく落防止対策が実施されている。

写真2 赤外線カメラによるかぶりコンクリートはく離の探査
(丸印がはく離箇所)

ひび割れ形態を左右する、かぶりと鉄筋径の関係

鉄筋腐食の膨張圧により発生するひび割れの形態を解析した研究成果1)がある。そこでは、かぶり(tp)と鉄筋径(Φ)の比により、発生するひび割れの形態に違いがあることが示されている。

具体的には(2tp+Φ)/Φの判定式が3.0未満の場合は、【図1】のような表面に向かって放射状のひび割れが発生するとされている。このようなひび割れが形成されるとかぶりコンクリートのはく離が生じやすくなるとしている。


図1 かぶりが小さい場合のひび割れ

図2かぶりが大きい場合のひび割れ

一方、(2tp+Φ)/Φの判定式が3.0以上の場合では、【図2】のように鉄筋に沿ったひび割れと水平方向のひび割れが発生するとされている。このようなひび割れ形態では【図1】のようなかぶりコンクリートのはく離は生じないと考えられている。

これらの現象を裏付ける鉄道高架橋の調査研究結果1)がある。調査結果ではコンクリート表面に最も近い位置にある鉄筋の径が19㎜で、かぶりが20未満の箇所ではく落箇所が多く、20以上ではほとんどはく落は生じていないとされている。

これらを踏まえて、上記の判定式にかぶり20と鉄筋径19を代入すると3.1となり、かぶり20を境にはく落の傾向が異なることと一致している。ただし、調査研究成果で示された20の閾値はあくまでも目安であり、コンクリートの品質や鉄筋径、環境条件により異なると考えられる。

先述の調査研究成果を踏まえて、中性化対策に関して、日本コンクリート工学会の指針3)では、かぶり25を閾値として、これより小さいと鉄筋腐食が早く、【図1】のはく離ひび割れが生じやすいとしている。ここで25としたのは上記の調査研究成果で示されている20に5の余裕を考慮したものと想定され、最外縁の鉄筋かぶりが25未満のコンクリート部材では鉄筋腐食によるはく離・はく落の発生確率が高いとしている。

広範囲で発生する はく落とその危険性

一方、かぶり20以上ではひび割れ形態が異なり、【写真1】のようなはく離・はく落の発生確率は低くなるが、【図2】に示すように鉄筋に沿ったひび割れに加えて、水平ひび割れが発生することに注目する必要がある。この水平ひび割れが次々に発生し繋がっていくと、広範囲でのかぶりコンクリートのはく離・はく落が発生する可能性が高くなり、第三者被害の観点から極めて危険な状態になる。

写真3】は鉄筋コンクリート床版橋の下面が広範囲にはく落した事例である。かなりの重量のコンクリート片が落下することになり、【写真1】の事例に比べて第三者被害の危険性が極めて高い状況である。

写真3 RC床版下面のかぶりコンクリートの大規模なはく落


このような広範囲のはく離・はく落は、複数の内部鉄筋が一斉に腐食膨張することにより発生するものであり、海岸線から非常に近く位置し、塩化物イオン供給量が多い構造物には発生しやすい。

交通量が多い路線で頻繁に渋滞するような環境にある構造物では、深い位置まで中性化が進行するため、同様に広範囲のはく離・はく落が発生しやすい。また、海砂が使用されている構造物でもこのようなはく離・はく落が発生する可能性が高い。

厄介なことに、【図1】のはく離ではひび割れにさび汁が見られることが多いが、広範囲のはく落ではさび汁などの兆候が見られない状況で、突然かぶりコンクリートが落下する事例がある。広範囲のはく落が懸念される構造物に対しては、入念にたたき点検や赤外線カメラ【写真2】などではく離している範囲を探査し、必要な対策を講じて甚大な被害を未然に防止しなければならない。また、かぶりの大小にかかわらず、コンクリートの品質が低くポーラスなものは、劣化因子が浸入しやすいため、かぶりコンクリートのはく離・はく落が発生する確率は高くなる。

このうち、自由塩化物イオンは鉄筋の不動態被膜を破壊し鋼材の腐食に関与するが、フリーデル氏塩に固定された塩化物イオンは不働態被膜を破壊することはなく腐食には関与しない。しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリート中に進入しコンクリートの中性化が進行すると、二酸化炭素がフリーデル氏塩と反応し、炭酸カルシウム(CaCO3)と塩化カルシウム(CaCl2)を生成する。これによりフリーデル氏塩に固定されていた塩化物イオンは解離し自由塩化物イオンとなる。
この結果、中性化していない場合と比較すると、多くの自由塩化物イオンが拡散することとなり、鋼材の腐食進行はより加速される。 

《次回は2026年2月にUP予定です》

【参考文献】

  1. 松島学,堤知明,関博,松井邦人:鉄筋の腐食膨張によるひびわれモード,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.15,No1、1993
  2. 石橋忠良,古谷時春,浜崎直行,鈴木博人:高架橋からのコンクリート片剥落に関する調査研究、土木学会論文集,No.711/Ⅴ-56,125-134、2002.8
  3. (公社)日本コンクリート工学会:コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針2022,pp81-95