【シリーズ】構造物の維持管理に役立つ知識〈全8回〉
寄 稿: 松村 英樹(一般社団法人 日本構造物診断技術協会 代表理事/技術アドバイザー室長)
#05|コンクリートの劣化機構についての豆知識(その5)
今回は、コンクリート構造物の再劣化を引き起こす要因のひとつであるマクロセル腐食について解説する。
マクロセル腐食によるコンクリート構造物の再劣化
コンクリート構造物中の鉄筋には、コンクリートの強アルカリ性により形成された数ナノメートル(1ナノメートル=10-9m)の極めて薄い不動態皮膜に覆われており、鉄筋腐食が抑制されている。
しかしながら、コンクリート中に塩化物イオンが浸入すると不動態皮膜が破壊され、腐食が始まる。コンクリート中の塩化物イオンの鋼材腐食発生限界濃度は不動態皮膜が破壊される塩化物イオン濃度であり、コンクリートの使用材料や配合、含水状態等に影響されるが、コンクリート体積あたりの質量で1.2〜2.5㎏/m³程度の範囲にあるとされている。
また、二酸化炭素の浸入によってコンクリートが中性化するとpHが低下し、これによっても不動態皮膜が破壊され腐食が始まる。
鉄筋腐食の進行は以下に示すように鉄筋表面から鉄イオン(Fe2+)と自由電子(e-)が放出されるアノード反応と、放出された自由電子(e-)が水(H2O)と水に含まれ溶解酸素(O2)とが反応し水酸化イオン(OH-)が生成するカソード反応により進行する。

このアノード反応とカソード反応が組み合わされると以下のように酸化第一鉄(Fe(OH)2)が生成される。

さらに、酸化第一鉄は以下のように溶存酸素と水に反応して、酸化第二鉄(Fe(OH)3)の赤さびとなり、鉄筋が膨張するためコンクリートにひび割れが発生し、はく離、はく落へと進展していく。

このアノード反応とカソード反応が極めて近い位置で生じる場合をミクロセル腐食といい、鉄筋全体が均一に腐食する1)。【図1】
一方、アノード反応とカソード反応が離れた位置で生じる場合をマクロセル腐食といい、局所的に腐食が進行する1)。【図2】

図1 ミクロセル腐食

図2 マクロセル腐食
マクロセル腐食はミクロセル腐食に比べて腐食する速度が2倍程度早いといわれている2)。塩害環境下のコンクリート構造物では部材位置によって外部から浸透する塩化物イオン濃度は不均一となるため、濃度が高い箇所の鉄筋の不動態皮膜は破壊されアノード部となるが、濃度が低い箇所は不動態皮膜が破壊されないためカソード部となり、マクロセル腐食が進行する。鉄筋の腐食膨張によりひび割れが発生すると、さらに塩化物イオンが浸入し、マクロセル腐食が加速され、腐食がさらに進行する。
【写真1】は塩害環境下にあるPC桁に発生した再劣化の事例であり、過去の断面修復箇所と既設部との境界からさび汁が滲出している。このような損傷は塩害対策後の再劣化現象に多く見られる。

この損傷の発生原因はマクロセル腐食と考えられる。つまり、既設部に浸透した塩化物イオンの濃度が高くなると鉄筋の不動態皮膜が破壊されアノード部となる。断面修復部は塩化物イオンを含んでいないのでカソード部となり、マクロセル腐食が進行したと考える。境界部から滲出したさびは腐食した既設部の鉄筋によるものと考えられる2)。
ミクロセル腐食との違いとマクロセル腐食の特徴
マクロセル腐食では、【図3】に示すように腐食部のアノード部から健全部のカソード部に腐食電流が流れ、アノード部とカソード部との間には電位差が生まれる。この電位差がなくなれば腐食の進行は止まる。

この考え方に基づき、マクロセル腐食対策として【図4】に示す電位差を強制的に下げる手法がある。この方法はカソード部の断面修復部の鉄筋に犠牲陽極材を設置し、これからアノード部の腐食した鉄筋方向に電流を流すことにより電位差をなくし、腐食をくい止める方法である3)。

断面修復後に生じる再劣化の要因とその対策
【写真2】はこの対策の事例であり、犠牲陽極材に亜鉛を用いたものである。鉄筋に亜鉛を結束させ、鉄筋の代わりに亜鉛を腐食させて、アノード部の鉄筋の腐食を抑制させるものである。この方法は電気防食工法の流電陽極方式のひとつで、腐食により亜鉛量が減少し効果が低下した時点で陽極材を交換する必要があり、腐食の抑制効果の確認方法や犠牲陽極材の交換方法などに課題もある。

近年、断面修復を行う時に既設部側の打ち継ぎ面に表面含浸材を塗布し、絶縁化を図りマクロセル腐食電流の形成を防ぐことにより、マクロセル腐食を抑制する方法が研究されている。使用する表面含浸材としてはシラン系やケイ酸塩系に抑制効果があるとされているが、既設部の塩化物イオン量が多いと抑制効果は低下するとされている3)。
したがって、断面修復においてマクロセル腐食による再劣化を防止するには、既設部の鉄筋位置の塩化物イオン濃度が鋼材腐食発生限界濃度を超過しない段階で対策を実施する必要がある。また、断面修復した後に表面被覆工法や表面含浸工法を実施して劣化因子の浸入を防止することが有効である。
また、塩害環境下にあるコンクリート構造物の予防保全対策としては、完成直後や供用期間内でも、「マクロセル腐食による再劣化の防止」と「劣化因子の浸入防止」をすることが有効であり、供用期間中の維持管理コストの低減につながるものである。
このうち、自由塩化物イオンは鉄筋の不動態被膜を破壊し鋼材の腐食に関与するが、フリーデル氏塩に固定された塩化物イオンは不働態被膜を破壊することはなく腐食には関与しない。しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリート中に進入しコンクリートの中性化が進行すると、二酸化炭素がフリーデル氏塩と反応し、炭酸カルシウム(CaCO3)と塩化カルシウム(CaCl2)を生成する。これによりフリーデル氏塩に固定されていた塩化物イオンは解離し自由塩化物イオンとなる。
この結果、中性化していない場合と比較すると、多くの自由塩化物イオンが拡散することとなり、鋼材の腐食進行はより加速される。
《次回は2026年4月にUP予定です》
【参考文献】
- 塩害環境下にあるコンクリート中鉄筋のマクロセル腐食形成機構 土木研究所資料 第4131号:独立行政法人土木研究所 構造物メンテナンスセンター 2009.1
- 飯島亨,工藤輝大,玉井譲:コンクリート構造物の補修箇所周辺での再劣化を探る,RRRVol.69 No.6 2012.6
- 遠藤裕丈,島多昭典:表面含侵材を使用したマクロセル腐食抑制に関する研究,第66回(2022年度)北海道開発技術研究発表会論文集 2023.2

